亡き父名義の不動産を売却して母の施設費用に充てるには「誰の名義」にするのが正解か?

「施設に入所している親の介護費用や入所代金を捻出するために、実家を売却したい」このようなご相談が、近年非常に増えています。

一見すると「売却して施設費用に充てるのだから、普通に手続きすればいいのでは?」と思われがちですが、実務上、「最終的な売却を想定したとき、遺産分割協議で誰の名義にするか」によって、その後の手続きの難易度や税金(贈与税・所得税)のリスクが大きく変わります。

本記事では、相続登記の専門家である司法書士の視点から、施設入所中の母親と子ども2人のケースを例に挙げ、「誰の名義にするのが最もトラブルのない正解か」を分かりやすく解説します。

1. 結論:売却目的の相続登記は「子ども名義」か「母親名義」の2

父親名義の不動産を売却するためには、まず「亡くなった父親」から「新しい所有者(相続人)」へ名義を変更する「相続登記」を行わなければ売却ができません。

選択肢としては大きく分けて以下の2つがありますが、「お母様の現在の体調・認知能力」によって、選ぶべき正解が異なります。

  • パターンA:子どもの代表者(または子ども全員)の名義にして売却する
  • パターンB:お母様の名義にして売却する

それぞれの特徴と、なぜ「一長一短」があるのかを深掘りしていきましょう。

2. 子ども名義にして売却し、施設費用に充てる(換価分割)

売却手続きの確実性とスピードを最優先する場合、実務上で最も多く選ばれているのが「子どもの名義(1人の単独名義、または子供たちの共有名義)」にする方法です。不動産を売却して現金化することを目的として行うこの遺産分割の手法を「換価分割(かんかぶんかつ)」と呼びます。

2-1 メリット:お母様の認知症リスクを完全に回避できる

お母様がすでに施設に入所されている場合、今後いつ体調の変化や認知能力の低下(意思能力の喪失)が起こるか予測がつきません。不動産を子ども名義に移してしまえば、売買契約や登記手続きを子どもたちの意思だけで迅速かつ確実に進めることができます。

2-2 注意点:税務署から「贈与税」を疑われるリスクと対策

今回のケースでは、「売却益をお母様の施設費用に充てる」という明確な目的があります。 しかし、単に遺産分割協議書に「子どもが不動産を相続する」とだけ書いて売却し、その売却代金をお母様の口座に入れたり、お母様のために使ったりすると、税務署から「子どもから母親への贈与である」とみなされ、贈与税を課されるリスクが生じます。

これを防ぐためには、遺産分割協議書の作成において以下のような工夫が必要です。

2-3 遺産分割協議書への特記

「本不動産は、母親の今後の施設入所費用および介護費用に充てる目的で売却(換価分割)するため、便宜上、長男〇〇がこれを相続し、売却代金から諸経費を差し引いた全額を母親の扶養・介護費用に充当する」といった趣旨の、明確な実態を反映した文案を記載しておく必要があります。

3. パターンB:お母様名義にして売却し、本人の口座で管理する

「お母様のためのお金なのだから、お母様名義にするのが一番自然ではないか」という考え方です。

3-1 メリット:税務上のリスクが最も低い

お金の流れが「父親の遺産 ➔ お母様名義の不動産 ➔ 売却代金がお母様の口座へ ➔ 自身の施設費の支払い」と完全に一貫しているため、子どもへの贈与税や実質的な遺産隠しなどを疑われる余地が一切ありません。税務面では最も明確で分かりやすい方法です。

3-2 デメリット・致命的なリスク:お母様の「意思能力」の壁

この方法が成立するための絶対条件は、「お母様自身にしっかりとした判断能力(意思能力)があること」です。

不動産を売却する際、不動産会社や司法書士は、名義人であるお母様ご本人に対して「本当にこの不動産をこの価格で売却する意思がありますか?」という面談・確認を必ず行います。施設への出張面談自体は可能ですが、もしこの時に認知症の進行などにより「契約の意味が理解できていない」と判断された場合、売却手続きは完全にストップしてしまいます。

4 手続きがストップした場合の代償(成年後見制度)

万が一、お母様の判断能力が不十分とみなされると、家庭裁判所に「成年後見人」の選任を申し立てなければ不動産が売却できなくなります。

成年後見人が選任されると、親族であっても売却代金を自由に扱うことはできず、親族以外の専門家(弁護士や司法書士)が後見人に選ばれた場合は、お母様が亡くなるまで毎月数万円ずつの後見人報酬が発生し続けるという、金銭的・時間的に重い負担を背負うことになります。

5. 「共有名義」は正解か?避けるべき理由

「お母様と子ども2人の、合計3人の共有名義にしてはどうか」という意見が出ることもあります。しかし、売却を前提としている場合、共有名義は最も避けるべきです。

3人の共有名義にすると、売却する際に「3人全員の署名・実印・印鑑証明書」が必要になります。誰か1人でも書類の準備が遅れたり、お母様の認知症が進行したりした時点で、やはり全体の売却が不可能になります。手続きを複雑化させるだけで、メリットはほとんどありません。

6. あなたのケースでの「最適解」を見極めるチェックリスト

結局のところ、誰の名義にするのが正解なのでしょうか。以下の基準で判断してください。

お母様の現在の状態

推奨される名義(相続登記の方法)

注意すべきポイント

認知面も非常にしっかりしており、体調も当面安定している

お母様の単独名義

(パターンB

売却完了までにお母様の状態が変わらないよう、迅速に売却活動を行う。

認知面に少しでも不安がある、または今後の体調変化が心配

子どもの代表者名義(パターンA:換価分割)

**贈与税対策を施した遺産分割協議書(文案)**の作成が必須。

7. まとめ:トラブルのない円満な売却のために専門家へ相談を

今回のケースのように「親の施設費用を捻出するための実家売却」は、一歩間違えると「認知症による手続きの凍結」や「数年後の税務調査での贈与税ペナルティ」という大きなリスクと隣り合わせです。

「子どもの名義にしてスムーズに売りたいけれど、税金がかからない遺産分割協議書の書き方がわからない」

「母親の名義で進めたいけれど、今の状態で売却の面談をクリアできるか不安」

そうした疑問や不安をお持ちの方は、ぜひ一度、相続登記と遺産活用の専門家である司法書士にご相談ください。

当事務所では、お母様の体調やご家族皆様のご意向を丁寧にヒアリングし、「最もスピード感があり、安全に施設費用を確保できる遺産分割プラン」をご提案いたします。

 

山猫司法書士事務所は、町田市・玉川学園駅前に位置し、相続・遺言・不動産登記などに関するさまざまなご相談を承っております。ご質問がございましたら、初回相談料無料とさせていただいておりますので、ぜひお気軽にお問い合わせください。

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