不動産共有制度の見直しについて
相続をした不動産を相続人の共有で取得をするとした場合、その後様々な問題が発生する可能性があります。
しかし、それぞれのご家庭の事情次第では不動産を共有で持たなくてはいけない場面も出てくるかと思います。
令和3年の民法の改正により、共有物の利用についての制度の見直しが行われましたのでそちらについて詳しく説明していきます。
1. 不動産を共有で持つ事のデメリットは?
1-1 売却の際に様々な問題が発生する可能性が出てくる。
・共有者全員の同意が必要になるため、話が進まなくなる可能性がある。
・共有者の中で認知症の方が出てきてしまった場合は、成年後見人を立てる等の対策が
必要となってきてしまう。
また、建物について大規模なリフォームや建て替えを検討する場合についても同様の
問題が発生する可能性があります。
1-2 不動産の管理について
民法上は不動産の管理については、共有者の持分の過半数をもって決定をすると決められており、建物の修繕等、不動産を賃貸に出すなどの行為が管理行為に該当します。
よって、共有者の持分の過半数の同意が無いとこれらの行為が出来ない事になります。
1-3 共有者について相続が発生した場合
共有者のうちの1人が亡くなるとその共有者が持っていた持分について相続が発生をした場合、関係者がねずみ算式に増えてしまい権利が複雑化をしてしまいます。
それにより、その後の不動産の管理や処分が困難になる恐れが出てきてしまいます。
2.共有物に関する制度の見直し
様々な問題が起きる可能性のある不動産の共有ですが、令和3年民法の改正において共有物を利用しやすくするための見直しが行われました。
2-1 共有物の使用について
共有物を使用する共有者は、それによって使用が妨げられた他の共有者に対し、その価格の割合に応じてその使用の対価を償還する義務を負うことを原則とする。(改正民法249条2項)
まずは共有物を使用する者が他の共有者に対して負う義務についてが明文化されました。
共有不動産に共有者の一人が居住をするというパターンがこれに該当をすると思われます。
ただし、共有者の間で無償とするとの合意があれば、無償での使用が可能となります。
2-2 共有物の変更について
以前までは、共有物に変更を加えるには全ての共有者の同意が必要であると規定されており、共有者の1人でも反対をすれば行為が出来ないものとされてきました。
そこで、同じく令和3年の民法の改正によりこの規定についても変更がなされました。
① 形状や効用の著しい変更を伴わない場合(軽微な変更)には、共有者全員の同意は不要となり、共有者の持分の過半数で可能となりました。(民法251条1項括弧書)
※どこまでが軽微な変更となるのかどうかは、はっきりしないものが多く個別具体的な事情によって判断をすることになるのではないかと思われます。
② 他の共有者を知ることができず、又はその所在を知ることができないときは、裁判所においてそれ以外の共有者らの同意によって、共有物を変更できる(民法251条2項)
※管理行為についても同様に他の共有者の過半数の同意で可能となります。
これらの変更により不動産の維持管理が今まで以上にスムーズに行えるようになりました。
3.所在不明の共有者がいる不動産の問題解決のための対応策
共有物について、共有者間において協議が調わないときは、共有者が地方裁判所に対し共有物分割を請求することができ(民法258条)、この共有の状態が相続の開始によって生じた場合は家庭裁判所における遺産分割調停・審判の手続きをとることになるのですが、もし相続人の中に所在等が不明の人がいる場合、これらの手続きを進めることも出来ません。
そこで、共有となってしまった不動産の状態を解消するための手続きが、令和3年の民法の改正により設けられました。
3-1 所在等不明の共有者の共有持分について取得や譲渡が可能に
改正後の民法では
・ 所在不明の共有者の不動産の持分について、他の共有者は裁判所に対しその持分を取得することを請求することができる。
・ ただし、所在等不明共有者の共有持分が遺産共有の場合は、相続の開始から10年を経過する必要がある。
この制度により、共有不動産の解消が以前より容易になったといえます。
3-2 手続きの流れ
① 不動産所在地を管轄する地方裁判所への請求
② 裁判所の3ヶ月以上の公告、登記簿上の他の共有者への通知
※ 他の共有者は、既に共有物分割訴訟や、遺産分割調停・審判が開始している場合は
今回のこの請求に対して異議を申しでることができます。また、自らも所在等不明共有者の持分を取得したい場合は、この公告期間に申し出る必要があります。
③ 裁判所から、取得を請求した共有者に対し取得対価の供託を命じます。
④ 裁判所による裁判
との流れになります。
4.第三者への譲渡の場合
今回制定された制度では、共有不動産を第三者へ売却をすることを希望する場合の手続きについても定められました。
その場合の手続きについては、上記とほどんど同じですがいくつかの注意点があります。
① 所在等不明共有者以外の共有者が、全員で同じ第三者に対して全ての持分を売却する必要がある。
※所在等不明共有者の共有持分のみの売却は出来ません。
② 売却に関する許可の裁判は3ヶ月で失効してしまう。
以上の点が注意点となります。
5.まとめ
今回の所在等不明共有者の持分取得の請求等ができるようになったことで
今まで問題となっていた不動産の共有関係の膠着状態の解消・不動産の有効活用
所有者不明土地問題の解消などさまざまな効果が期待できるのではないかと思います。
山猫司法書士事務所は、玉川学園駅前に位置し、相続に関するさまざまなご相談を承っております。不動産の共有問題に関するご質問がございましたら、ぜひお気軽にお問い合せください。